実際の出来事を各種架空名称に置き換えて一応時系列で進めて行きます/途中から読む人は内容が判らないと思いますので、出来ればトップページへ移動 して最初からお読み頂くことをお勧め致します。
🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹🔹
前章で登場した中地教授が頭巾、そして他のお客さんを伴って我が家に来られた事があった。
来客については事前に連絡を貰っていたので、私は近所のケーキ屋さんでショートケーキを購入してお茶の準備をしていたのだった。
この時頭巾御一行は手土産にクッキーを一箱持って到着されたのだが、約半時間後に件のクッキーが原因で頭巾が怒りだす事になる。
甘味物が大好きなはずの頭巾は何故かケーキに不満があるのか、不機嫌な顔をしていた・・・そして中地教授と同行者は途中で「滞在時間が限られているので今回はお先に失礼させて下さい」と言って席を立ったので、手土産のクッキーまでは出す事が出来なかったのだ。
その帰り際の事だったのだが、頭巾は私を睨み付けて「なんで人が折角買ってきてやった御菓子を出さないんだ! 古黍さんは常識が無いっ」と吐き捨てる様に言ったのだ。
私にしてみれば、極めて短時間で客人達が帰途に就くなどとは聞いていないわけだし、此方の用意していたのはその日のうちに食べて仕舞わなければならない生菓子で、私の知っている常識では、すぐに御客さんの持ってきた菓子を出すのではなく、まずは用意しておいた物を提供し、間を置いてから御持たせを出すのは何の問題も無いはずだ・・・今回は早々に御客さんが帰られたので、次の菓子は出せなかったが、この事がそんなに癇に障る事なのだろうか。
万一ホスト側が来客用に何も用意していなかった場合は「御持たせで失礼ですが」と断りを入れて、お客さんの持ってきた菓子を出す事になろうが、頭巾の頭の中にはそう言った常識は存在していなかったのだろう。或いは頭巾が余程件のクッキーを食べる事を楽しみにしていたのだろうか。
まぁ私の持っている常識が必ずしも正しいとは言えないし、頭巾家には親の代からの由緒正しい常識が存在するのだろう・・・何しろ頭巾は資産家の御子息であり、しかも成金の資産家ではではないので、落ち着きない奴だとは言えそれ成りのマナーは弁えているはずだと当時の私は考えていたのだが。
但し、手土産のクッキーは私の家の近くで購入された物であり、厳しい見方をするのであれば客人として訪問する際の手土産は相手様宅の近所の物は持って行かないと言うマナーもあるので、必ずしも頭巾が全面的に正しいとは思えなかったのだ。
マナーだけではなく仕事の面に関しても一つ例を揚げておく事が適当かも知れない。
私は頭巾の様々な依頼を処理していたが、頭巾はいつも「えっ!もう出来たの!?」と私の仕事を不審がっていた・・・何も時間を掛けるのばかりが良いと言う物では無いのだが、慎重に丁寧にやってますよと言うゼスチャーを見せておくべきだったのだろうか。
しかし慎重にだとか丁寧な仕事は時間が掛ると言う物でも無い事は誰でも知っているはずだが、この件に関しても私の常識は頭巾の非常識だった。
さて年月を少し進めて別の例を示してみよう。
頭巾の研究はマスメディアにとっては、新聞読者・TV視聴者等に驚きを与える絶好の素材だったのだが、実際には或る生命現象に対して頭巾が文飾を使ってセンセーショナルな物に仕立て上げただけの物であり、有名になってチヤホヤされたい為の曲学阿世に過ぎなかった・・・しかしマスコミの拡散力は強大で、現在ではインターネット上で定説として扱われ、反対意見を探し出す事は極めて困難な状況である。
頭巾の説明通りなら人類は一足飛びにカルダシェフスケールⅡ~Ⅲへの移行期に足を踏み入れる事が出来ると言った様な馬鹿馬鹿しさだ。
話しがネット云々に少し脱線したが、この〝面白い〟話にマスコミが注目し、やがて海外からの取材も来る様になる。
その中にイタリアのTVクルーも居たわけだが ( 当時既に私は頭巾ラボの一員になっていた ) 取材期間中に我々はそのイタリア人と食事を共にする事があり、その時の事なのだが、頭巾が私に「イタリア人はマナーが悪い」と言い出したのだ。
私の見る処彼等は品行方正、何処にもマナー違反や下品な様子は見られなかったので、頭巾に「どうしたんですか? 何も問題となる様には思えなかったのですが」と訊くと、頭巾が問題視していたのは食事の終盤で、皿に残っていたソースをパンで拭って食べていたと言う事だったのだ。
米英では見られないが1)イタリア料理やフランス料理では、皿をパンで綺麗に拭うのは普通の事だったはずで、頭巾の目には見慣れない光景=マナー違反と映ったのだろう。
私は内心マナー皆無のオマエが言うなよと思った事は言うまでもないが、頭巾の物凄い食事マナーについては追々記して行く事にする。
1) 頭巾は90年代に日伊研究者の交流事業で、イタリアへの派遣隊に加わって短期間ではあるが駐在している
ので、その時にイタリアの流儀を見ているはずなのだが。